もしわたしたちが過去へ旅行することができるとすれば、たとえば、自分が生まれる前の母親を殺して自分が生まれないようにする、という理解不可能なパラドックスに陥ります。理論物理学のスティーブン・W・ホーキンス氏は、「時間順序保護仮説」をとなえて、タイムトラベルは不可能である、と主張しています。
ブラックホールの中で何が起こるかは、はっきりしていません。一般相対論の方程式の解には、ブラックホールに入ったのち、どこか別の所でホワイトホールから出てくることを許す解があります。ホワイトホールとはブラックホールを時間反転(時間の進み方を逆にすること)したもので、そこからは出てくることはできるが、何物も入ることのできないものです。
ホワイトホールは宇宙の別の場所にあるのかも知れません。これは、高速の銀河間旅行の可能性を与えるように思えますが、問題は、その速さが速すぎることです。もし、ブラックホールを通り抜けての旅行が可能であれば、出発前の時点に戻ってくることを妨げるものは何もないのです。そうすると、たとえば、自分の母親を殺して自分が出発すること自体を不可能にする、などということができるようになります。タイムトラベルがどのような問題を起こすかを知りたければ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をごらんください。
しかしながら、私達の生存、そして私達の母親の生存にとって幸運にも、物理学の法則はそのようなタイムトラベルを許さないようです。・・・過去に旅をしようとしたときに何が起こるかというと、不確定性原理の効果で多量の放射線が発生し、それによって時空が非常に湾曲しもはや過去には行けなくなるか、時空にビッグ・バンやビッグ・クランチのような特異点が発生しそこで終わりになるか、いずれかが起こると考えられます。
いずれにせよ、私達の過去は悪意を持った人たちから守られているようです。私や他の人達による最近の計算も、この「時間順序保護仮説」を支持していますが、タイムトラベルが不可能であり、決して可能になるはずがないことを示す最もよい証拠は、なんといっても、私達が未来からの旅行者の群れに未だかつて侵略されたことがないことです。