読書は余にとりては一つの道楽である。しかり唯一の道楽である。しかし読書は道楽ではあるが、悪い道楽ではないと思う。これによって多くの無益の書と少なからざる有害の書を読むの害はあるが、しかし時には有利有益の書に接して心に無限の快楽を感ずることがある。世に快楽の種類は多いが、真理を発見した時に優るの快楽はない。しこうしてこの快楽が欲しさに毎日毎時書籍を漁るのである。あたかも墨川の釣りを垂るる者のごとく、獲物の稀なるは覚悟しつつ、獲た時の嬉しさが忘れられずして、真理の漁猟に従事するのである。