伝統的な宗教、あるいは文化に対するこの誤解ないしは無理解がどんなに深く日本人の精神の深部に及んでいるかを知るために、われわれは、日本の文化、あるいは、日本の思想について、優れた業績を残した三人の思想家を選んで、宗教に対する無理解がどんなに根深くこれらの思想家の精神の奥に存在し、それがどんなに彼らの仕事の創造的発展を妨げているかを調べてみよう。私がここで選んだ思想家は、和辻哲郎、柳宗悦、丸山真男の三人である。
この三人の思想家は、かつて私が深く尊敬した思想家であり、今なお心のどこかに彼らに対する尊敬の心は残っている。しかし、私は彼らの思想の中に、黙視することの出来ない偏見を見る。学問の世界では私情は許されないのである。どんなに軽率、粗暴の批判をまねこうと、真理のために言うべきことは言わねばなるまい。