前略
初めてのお便りですが、いきなり深刻な質問をさせていただきます。これ らの質問にはキリスト教のみならず全人類の運命が かかっていま す。難問を撃破する名回答をお寄せ下さることを期待します。
1、 宇宙や生命が永遠であるならば究極の目的などあろうはずが なく宇宙や生命に究極の目的があるならばそれは永遠であろうはずがあり ません。本当のところはどうなのでしょうか。
2、 ホモサピエンスはあと何年位存続する(あるいはさせる)べ きでしょうか。そもそもホモサピエンスに存続する(あるいはさせる)値 打ち、もしくは存続しなければ(あるいはさせなければ)ならない理由な どといったものがあるのでしょうか。
3、 次のアフォリズムに対して反駁して下さい。
・存在しないよりは存在する方がましだということを証明するいかなる方
法も存在しない。
・素晴らしい解決方法は殆ど全ての問題の解決に適用できる。
・いかなる治療法も予防以上の効果を上げた例はない。
4、 そのように行為することによって著しい危害、災厄、損失が 予想される場合そのように行為することを回避、中止、拒絶することは正 しい判断といえるでしょうか。またそのことによって不利益な処遇がなさ れることがありますか。
5、 何か事が起こってから対応に苦慮し処理に追われ続けるのと 、何も事が起こらないよう究極の原因(源)を遮断し未来永劫に渡る平和 と安定を確保するのではどちらが良いのでしょうか。
6、 死刑制度は存続すべきでしょうか。それとも廃止すべきでし ょうか。
7、 安楽死は容認すべきか それとも禁止すべきか。(古典例 トマス モアのユートピア)
8、R ドーキンスの「利己的遺伝子」説についてどう思いますか。
9、マルサスの人口論についてどう思いますか。
10、近年の生殖医療についてどう思いますか。
11、伝道者の書4の3には同意されますか。
12、A、ショーペンハウアーやE.Mシオランの思想について どう思われますか。
13、地獄の様子は「神曲」や「往生要集」にある通りなのでしょうか。
14、釈放(てんごく)と極刑(じごく)以外に執行猶予(りんねてんし ょう)という説も有力ですが、やはりあるのでしょうか。
15、共同体の利益を保持するという名目でなされる行為は違法性を阻却 する事由として容認されうるか。(古典例 カルネアデスの板)
16、人間は誕生前どういう状態だったのでしょうか。あるいは存在して いたのでしょうか。生命の始まりは いつからでしょうか。
17、臓器移植は推進していくべきでしょうか。脳死は人の死か。
18、自分が正しいと信じている事柄を行ったところ結果として他人に苦 痛、災厄、危害をもたらすことになった場合行為者には不利益な処遇がな されるのでしょうか。また道義上の責任は問われるのでしょうか。
19、ある目的を達成する上で他者の協力が必要となる場合相手の同意を 得ずして強引に引きずり込むことは道義上許されるのでしょうか。後にな って原状回復や損害賠償を請求された場合これに応じる義務はないのでし ょうか。
20、クローン技術のホモサピエンスへの応用は認めるべきでしょうか。
以上
どんな理由で、これらの問題についてのわたしの意見を聞こうとされたのか、わたしにはよくわかりませんが、あいにく、これらの問題のうちのほとんどについて、わたしは意見を持っていません。したがって、とても「難問を撃破する名回答」などは出てきそうもありません。それでも、いくつかはわたしの興味を引く問題もありますから、それらについてのみ、少しばかり述べてみます。
1、 宇宙や生命が永遠であるならば究極の目的などあろうはずが なく宇宙や生命に究極の目的があるならばそれは永遠であろうはずがあり ません。本当のところはどうなのでしょうか。「永遠の宇宙」とか「究極の目的」という形而上学的な事柄は、わたしの認識圏外のものですので、このような認識問題に関してはどんな意見も持っていません。
2、 ホモサピエンスはあと何年位存続する(あるいはさせる)べ きでしょうか。そもそもホモサピエンスに存続する(あるいはさせる)値 打ち、もしくは存続しなければ(あるいはさせなければ)ならない理由な どといったものがあるのでしょうか。意見なし。
3、 次のアフォリズムに対して反駁して下さい。このどれにも意見なし。
・存在しないよりは存在する方がましだということを証明するいかなる方 法も存在しない。
・素晴らしい解決方法は殆ど全ての問題の解決に適用できる。
・いかなる治療法も予防以上の効果を上げた例はない。
4、 そのように行為することによって著しい危害、災厄、損失が 予想される場合そのように行為することを回避、中止、拒絶することは正 しい判断といえるでしょうか。またそのことによって不利益な処遇がなさ れることがありますか。意見なし。
5、 何か事が起こってから対応に苦慮し処理に追われ続けるのと 、何も事が起こらないよう究極の原因(源)を遮断し未来永劫に渡る平和 と安定を確保するのではどちらが良いのでしょうか。再び、この「究極の原因」とか「未来永劫」というような形而上学的コトバが出てきましたが、わたしの認識圏外の事柄については、わたしはいかなる意見ももちません。
6、 死刑制度は存続すべきでしょうか。それとも廃止すべきでし ょうか。死刑は犯罪の問題ですから、それは共同体運営の問題です。したがって、それぞれの共同体のメンバーが、自分たちの共同体をいかに運営したいかという問題の一つとして、それぞれの共同体のメンバーがそれぞれの共同体のために決定すべきことと思っています。ある特定の世代の特定の共同体の価値観が、おのれの世代と共同体越えて、他の世代や他の共同体に押しつけることのできる、普遍的な「死刑制度は存続すべき・廃止すべき」回答を、わたしは認めません。
現代の日本社会に限れば、国民投票があれば、わたしは死刑中止(再開の可能性を否定しない)に投票するでしょう。
7、 安楽死は容認すべきか それとも禁止すべきか。(古典例 トマス モアのユートピア)自殺は個人の自由です。他殺は犯罪です。問題は、ある具体的な死が、自殺であったか他殺であったかという問題です。「安楽死は容認すべきか それとも禁止すべきか」という形の問題の提起の仕方は混乱を生むだけです。
8、R ドーキンスの「利己的遺伝子」説についてどう思いますか。ドーキンスの書は二冊ほど読んでみました(The Selfish Gene と The Blind Watch Maker)が、どちらもおもしろくなく、途中で投げ出してしまって、今のところ、読み進む気持ちはありません。意見なし。
9、マルサスの人口論についてどう思いますか。意見なし。
10、近年の生殖医療についてどう思いますか。意見なし。
11、伝道者の書4の3には同意されますか。「既に死んだ人を、幸いだと言おう。更に生きていかなければならない人よりは幸いだ。いや、その両者よりも幸福なのは、生まれてこなかった者だ。太陽の下におこる悪い業を見ていないのだから。(コヘレトの言葉、伝道の書 4:2-3)」
文脈の中でこれを読めば、作者はここで「虐げられる者(4:1)」の苦痛や悲惨さを印象づけるために、こういう表現をしているのであって、それは一つのすぐれた文学的手段であって、「すでに死んだ人」あるいは「まだ生まれていない人」の幸福の量と「生きて苦痛を受ける人々」の幸福の量を比べて、前者の幸福の量の方が大きい、という認識判断ではありません。こういう表現で述べられている苦痛や悲惨が現実として存在しているということにはもちろん同意します。
12、A、ショーペンハウアーやE.Mシオランの思想について どう思われますか。ショーペンハウアーもシオランも読んだことがありません。意見なし。
13、地獄の様子は「神曲」や「往生要集」にある通りなのでしょうか。またまた、わたしの認識圏外に関する問いです。(どうしてこんな質問がわたしになされるのでしょう?)意見なし。
14、釈放(てんごく)と極刑(じごく)以外に執行猶予(りんねてんし ょう)という説も有力ですが、やはりあるのでしょうか。これも、わたしの認識圏外に関する問いのようです。意見なし。
15、共同体の利益を保持するという名目でなされる行為は違法性を阻却 する事由として容認されうるか。(古典例 カルネアデスの板)意味がよく分かりません。「カルネアデスの板」についても知識がありません。
16、人間は誕生前どういう状態だったのでしょうか。あるいは存在して いたのでしょうか。生命の始まりは いつからでしょうか。これも、わたしの認識圏外に関する認識的問いです。知らないことに関しては一切わたしは意見をもちません。
17、臓器移植は推進していくべきでしょうか。脳死は人の死か。(1)どんな問題があっても、提供者と受者の同意があるかぎり、臓器移植は推進されるでしょう。
(2)脳死の問題は、脳死が人の死かどうか、というところにあるのではなく、人工的延命装置を医者が取り外すとき、その医者の行為を殺人犯罪とみなすかどうかという犯罪基準設定の問題であって、したがってそれ(犯罪基準設定)も、それぞれの共同体のメンバーがそれぞれの共同体のために決定すべき問題だと思います。
18、自分が正しいと信じている事柄を行ったところ結果として他人に苦 痛、災厄、危害をもたらすことになった場合行為者には不利益な処遇がな されるのでしょうか。また道義上の責任は問われるのでしょうか。こういう問題は、具体的な一つ一つの問題を取り上げなければ無意味だと思います。
19、ある目的を達成する上で他者の協力が必要となる場合相手の同意を 得ずして強引に引きずり込むことは道義上許されるのでしょうか。後にな って原状回復や損害賠償を請求された場合これに応じる義務はないのでし ょうか。同上。
20、クローン技術のホモサピエンスへの応用は認めるべきでしょうか。認められることを大いに期待します。わたしは自分自身のクローンを欲します、いっぱい! 考えただけで楽しくなります。
以上です。