ベエル・シェバの地の名前の由来に関しては二つの伝承が記録されているが、それぞれ別の理由があげられて、矛盾を示している。
創世記二十一章
創世記二十一章ではベエル・シェバの地の名前について、アブラハムとアビメレクが友好の契約を結んだとき、問題のあった井戸(ベエル)がアブラハムが掘ったものであることの証拠として、アブラハムはアビメレクに七匹の雌の子羊与え、二人が誓いを交したことが、その地の名前の由来であると記しています。
創世記 21:22-31
そのころ、アビメレクとその軍隊の長ピコルはアブラハムに言った。「神は、あなたが何をなさっても、あなたと共におられます。どうか、今ここでわたしとわたしの子、わたしの孫を欺かないと、神にかけて誓って(シャバ)下さい。わたしがあなたに友好的な態度をとってきたように、あなたも、寄留しているこの国とわたしに友好的な態度をとって下さい。」アブラハムは答えた。「よろしい、誓いましょう。」アブラハムはアビメレクの部下たちが井戸を奪ったことについて、アビメレクを責めた。アビメレクは言った。「そんなことをした者がいたとは知りませんでした。あなたも告げなかったし、わたしも今日まで聞いていなかったのです。」アブラハムは、羊と牛の群れを連れて来て、アビメレクに贈り、二人は契約を結んだ。アブラハムは更に、羊の群れの中から七匹(シェバ)の雌の子羊を別にしたので、アビメレクはアブラハムに言った。「この七匹(シェバ)の雌の子羊を別にしたのは、何のためですか。」アブラハムは答えた。「わたしの手からこの七匹(シェバ)の雌の子羊を受け取って、わたしがこの井戸(ベエル)を掘ったことの証拠として下さい。」それで、この場所をベエル・シェバと呼ぶようになった。二人がそこで誓いを交したからである。
創世記二十六章
ところが、二十六章を見ると、ベエル・シェバの地の名前の由来に関するもう一つの物語が出てきます。こちらの物語では、アブラハムではなく、その子イサクがその地の名付け親になっています。また、この井戸を掘ったのもアブラハムではなく、イサクの僕たちということになっています。
創世記 25:23-26:33ベエル・シェバの地の名前の由来に関して聖書には二つ異なる伝承を記録していますが、その名前の由来についても、矛盾を示しています。これもやはり、創世記にたくさんある他の重複した物語と同じように、もともと一つの物語であったものが、別々に伝承されてゆく過程で、矛盾が生じる結果となったと考えられます。
イサクは更に、そこからベエル・シェバに上った。(中略)イサクはそこに祭壇を築き、ヤーウェの名を呼んで礼拝した。アビメレクが参謀のアフザトと軍隊の長のピコルと共に、ゲラルからイサクのところに来た。イサクは彼等に尋ねた。「あなたたちは、わたしを憎んで追い出したのに、なぜここに来たのですか。」彼等は答えた。「ヤーウェがあなたと共におられることがよく分かったからです。そこで考えたのですが、我々はお互いに、つまり、我々とあなたとの間で誓約を交し、あなたと契約を結びたいのです。以前、我々はあなたに何の危害も加えず、むしろあなたのためになるよう計り、あなたを無事に送り出しました。そのように、あなたも、我々にいかなる危害も与えないでください。あなたは確かに、ヤーウェに祝福された方です。」そこで、イサクは彼等のために祝宴を催し、共に飲み食いした。次の朝早く、互いに誓いを交した後、イサクは彼等を送り出し、彼等は安らかに去って行った。その日、井戸を掘っていたイサクの僕たちが帰って来て、「水が出ました」と報告した。そこで、イサクはその井戸をシャバ(誓い)と名付けた。そこで、その町の名は、今日に至るまで、ベエル・シェバと呼ばれている。